引き籠もりヒーロー 第4巻 ポストカード用短編「メイドの下剋上」

日本担当ヒーローマスカレイドには、専任サポートロイドとして三体のバイオロイドがいる。
オペレーター同様、ヒーローカタログで契約する存在ではあるが、ミナミとは違い一からデザインされて誕生したバイオロイドたちだ。
その美しい容姿とスタイルは嬉々としてミナミがデザインした結果、複数デザインするのが面倒臭くなって使い回したものという予備知識はあるものの、今回に関しては直接関係ない。
実際、当の三人にしてみれば特に気にしていなかったし、着任当初から習得技能や装備、髪型や食事まで意図的に区別され、ついでに謎の映画鑑賞耐久実験という地獄に放り込まれた事で謎に個性を発揮した結果、人相や性格に差異が生まれているのだ。
今では好みの映画の差で論争になるさえあるほどだ。B級アクションとZ級ホラー、サメと、何か間違っている気がしないでもないラインナップについて語り、罵り、論破されて絶望し、かつて強引に鑑賞されられてトラウマになりつつあるクソ映画十作選を思い出して、アレよりはマシと心を落ち着かせ、謎の一致団結を図るのだ。
普段は大人しく要領のいいアルジェントも、クソ映画とZ級映画を似たようなものじゃないかと指摘すると、同じにするんじゃねえとキレる。他の二人も決してそれには同意できない。人格形成時に刷り込まれたクソ映画のイメージは、三人にとって絶対譲れない一線として機能していた。どんだけだよ。
と、そんなどうでも良さげな経緯で謎の個性を獲得したものの、基本的に彼女たちは姉妹のような関係になるのは当然の事であった。
そもそも三体セットの割引キャンペーンで購入された彼女らは着任時期が同時であり、それはつまり誕生日が同じな三つ子のようなものなのだから。
それはそれとして、誰が長女で次女で三女なのかについては別の問題なのだが。

「納得いかーんっ!」

とある業務……ヒーローボトル封入の流れ作業から戻ってきたインは憤慨していた。メイドとして労働に喜びを感じるようデザインされているにも関わらず、一切の意義を感じさせない虚無が如き作業を一人でこなすのは相当に堪えたらしい。
憤慨するインを生暖かく、うんうんそうだねという視線で迎える二人は優しい姉のようでもあった。

「あんたたちもアレやれやっ!」
「嫌です」「嫌に決まっているじゃないですか」

しかし、非常でもあった。
上手いことインに押し付けた二人ではあったが、その労働内容を見て絶句すらしていたのだ。特にギリギリまで争っていたプラタにとってはシャレになっていない。罰ゲーム決定戦として開催した格ゲーのリーグ戦、本当に最後の最後まで、体力ゲージとタイムゲージ双方がギリギリのせめぎあいだったのだから。
一方で、ちゃっかりと一人抜けしたアルジェントは、単純に労働内容の虚無さに拒絶感を持っていた。
別に労働負荷や拘束時間に文句を言うつもりはないし、過酷な労働にだって耐えてみせよう。それがロイドとしての特性であり、メイドの本質なのだから。
しかし、三人に共通している認識として、あの労働はメイドっぽくないというのが問題だった。ひたすら虚無な作業が続くあの労働は、メイドとして形成された人格にすら影響ありそう……というのが本音だった。

「ふざけんなやっ! ワイがどんな気持ちであんな虚無との一体感を感じるような労働に勤しんでいたか分かるかっ!?」

だって、謎に口調が変化して乱心しているインを見ると、まんざら杞憂でもなさそうだし。
お前のそのメイドらしくない口調はどこから来たんだと突っ込みたい。しかし、下手に突っ込むとやぶ蛇になりそうだからスルーする。今、プラタとアルジェントの心は一つだった。

「だいたい、登録順でたまたま最初だったプラタが長女扱いされてるのも納得いかない! なんで私が末っ子扱いされてるわけっ!?」
「ですが、コードネームは私がシルバー03であなたはシルバー05なのは純然たる事実」
「というか、私は別にプラタが姉でも構いませんが」
「ほら、アルジェントもこう言ってますし、何度も蒸し返すような事は……」
「二番目ならいいので、上がインでもいいんですけど」
「裏切られたっ!?」

果たして、これまで何度したやり取りなのか。その度に決して揺るぐ事のない結果に、何故か長女、次女、三女っぽい気質すら備えつつあるバイオロイドの奇跡。

「というわけで姉の座を賭けて勝負よっ!」
「と言っても、今となってはマスカレイド様にもミナミにも追認して頂いた立ち位置ですし」

本人たちとしては、別に登録順でいいだろ程度の認識でしかないのだが、はっきりと明言されている事に意義を唱えるのはメイドとしていかがなものか。

「そう言うと思って、直談判して来たの。見なさいっ! このマスカレイド様とのお宝映像をっ!」
『姉の座を賭けて対決したい? ……いいんじゃね?』

どうでも、という言葉が続く幻聴さえ聞こえてきそうな、実に興味のなさそうな表情のマスカレイドがそこにあった。
とはいえ、主からこうはっきりと言われてしまってはメイドとして無下にもできない。

「どうよっ!?」
「まあいいでしょう。普段からさんざんやってる事にオマケが付くようなものですし。プラタもいいですか?」
「う、うん、構わぬぞ……」

安定感のあるアルジェントと違い、いつもギリギリで勝ちを拾っている気がしなくないプラタは少々不安で口調が乱れていた。
実際、何かを賭けて色々と対戦しているのはいつもの事なのだ。日々のおやつや業務の順番、拠点や各セーフハウスの掃除・洗濯など、メイドとしての業務に関わる部分だけ優先される順が異なるだけで、別段珍しい事でもない。

「それで、お題は? 前の格ゲーのリベンジマッチですか?」
「「…………」」

アルジェントの提案に、前回繰り広げられたギリギリもギリギリの攻防を思い出して固まるプラタとイン。
スペック故に入力ミスなどしない、フレーム単位での反応速度の戦いになる格ゲーは常に薄氷の上でタップダンスを踊るような緊張感があった。
完全にデータを理解しているわけではないから最適解にはならないものの、それがまた一種の心理戦になる。結果として、より心の強いほうが勝つという構図を反映しているようでもあった。

「ま、まあ、私たちには完全情報ゲームでの対戦は不向きですし、似たように紛れの余地のあるものがいいでしょう」
「運の絡む要素があったほうがいいって事ね、分かったわ」
「仲いいですね、あなたたち」

というわけで、なんとなくポーカーでプレ対戦する事になった。

「か、勝てない……かなり運ゲーなのに」
「というより、インが弱過ぎるかと」
「姉は妹の事を良く見ているものです。だからプレ対戦などと言わず、これではい、決定という事で」
「プラタが必死過ぎてワロタ」
「黙れ、次女」

カードの手で勝っても、ベットの駆け引きで表情を読まれて負けるイン。本人としてはポーカーフェイスを貫いているつもりだし、実際無関係なギャラリーが見ていればさっぱり分からないだろうが、同じ立場の二人にはバレバレらしい。インから見たら良く分からないのに。

それから無数のカードゲームやボードゲームで対戦を繰り返す。全員の手が空いた時しかできないので、業務の合間を縫って長期間にも及ぶ戦いは続く。
別にインが一弱というわけでもなく、全体の傾向としてみれば平均的かむしろ勝っている事も多い。特に運が強く絡むゲームでは、手に恵まれる事が多いのがインだった。しかし、何故かここぞという場面でその運が裏目に出たりして負けるのがパターンである。振り返ってみればいつもより運が良かったりするのに心理状態によって活かせないのだ。正にそういう運命の元に生まれたとしか言いようもない事実。
データからそんな勝敗の傾向が現れ始めるのを見て、こっそり観戦していたミナミはバイオロイドの個性について混乱させられていた。

そんな傾向が最も強く出たのは、競馬対決。とある日の全レース分を、あらかじめ用意した金額をやりくりして仮想的にシミュレーションするというものである。過去のレースからの参照ではなく、わざわざリアルタイムで観戦しての対決だ。
もちろん、単に運任せだけの勝負というわけでもない。過去のレース結果や各厩舎が発表している情報などは可能な限り収集し、分析した上で紛れの多い本番の結果を予想するのだ。掛け金の配分も重要な要素で、大きな逆転もあり得る。そんな勝負にインは強かった。
逆にこの勝負で弱かったのはアルジェントだ。非常に固いが故に爆発力のないアルジェントは、最終的に勝つには大きく賭け金を積み上げなければいけない常態に追い詰められ、更に言えば他の二人と同じ券を購入するわけにもいかないというジレンマに苦しめられる。悩んだ結果、安定性をとってしまい、大きく差を離される事になるのも彼女の個性なのだろう。
しかし、最終レースが荒れて、結局三人とも積み上げたものを失うという結果がオチだった。

「稍重での最終レースを甘く見てました……」
「まさか本命が落馬するなんて……」
「血統を見るに、もう少し強くてもいいはずなんですが……」

最終レースを終えたあとの三人は、同じようにレース場をあとにするおっさんたちと同じ哀愁が漂っていた。

「次の対戦はこちらです」

ある日、対戦に何を使うのか選定権が回ってきたプラタが出して来たのはアナログのボードゲームだった。昔から存在するポピュラーな題材……人生ゲームである。

「人間じゃなくて、生まれたばっかの私たちが人生ゲーム?」
「ゲームとしてやる分には構いませんが、なんとなく滑稽では?」
「ふふふ、コレは今回のためにわざわざミナミに作ってもらった特別仕様の人生ゲーム、『メイド生ゲーム』です!」

その名前だけで、メイドに強い拘りを持つ者たちの目の色が変わった。それはまるで自分たちのために用意されてようなもの……いや、実際にそのまま自分たちのためのゲームではないか。これからのメイドとしての在り方を予見するような、そんなゲームになるに違いない。

「特に頼んだわけでもないのに、わざわざアナログ細工をし難いデジタルルーレットまで用意するという細かい気配り。さすがはミナミといったところでしょうか」
「……また最初に戻る」
「……ご主人様が破滅するとセットで破滅するんですが」
「……破産。ふふ、ロクにバランス調整もテストプレイもせずに放り投げるとは、さすがミナミといったところでしょうか」

何度かプレイしたが、主に破産時期の差で決着が着く事になったのは、バイオロイドである三人に人生というものの儚さを深く刻みつける事となった。
ミナミが脳内計算のみで要素を詰め込むだけ詰め込んだメイド生ゲームは有り体に言ってクソゲーだった。

特にリアルでもない現実を突きつけられたところで、趣向を変えて手を出したのはFPSだった。
メイド同士の対戦ではなく、チームを組んで貢献度の差で順位付けしようという趣向である。
基本スペックが高い彼女たちのレートが高くなるのはあっという間で、特に隠しもせずにボイチャをしていた事から次第に噂が広がり、一気に注目プレイヤーとして有名になっていき、少しだけ調子に乗り始めたところで謎の超絶技巧を持つプレイヤーにズタボロにされた。

「な、何故、マスカレイド様が野良FPSに……」

それは誰も正体を知らないが、なんとなく無双をして暴れたくなった時に出現するツチノコのようなプレイヤーとして認識されつつあるマスカレイドだった。

「これはアレでしょうか。安易に外部と接触するなという警告」
「直接メッセージが来てますね。『俺のシマを荒らすんじゃねえ』と」

暴論だった。
とはいえ、主人たる存在に逆らう気になどなれず、三人は引退を決意。彼女らをアイドル扱いし始めていたプレイヤーたちは泣いた。

最終的に彼女たちが戻ってきたのは、容易に準備ができ、短時間で決着が付く類のものだった。

「こうしてトランプをやってると、人間の歴史ってやつを感じますね」
「それどころじゃないから」

いつものように、アルジェントから話題を振られるものの、インとしてはそれどころではなかった。
確かに、種としてすらわずかな歴史しか持たないバイオロイドからすればトランプの歴史は奥深いものがあるだろうが、今は眼の前のカードの数のほうが重要なのだ。アルジェントにしてもそれは心理戦の一種だ。
このまま16でスタンドするか、もう一枚引くか。ディーラーであるプラタは相変わらず表情が読めない。ポーカーフェイスでなくドヤ顔なのに。
あるいは、安心できるチップ差で引いたアルジェントをダブルダウンで引きずり下ろすという線もなくはない。ここまで平たい状況で推移していたため、事実上このゲームのみで勝敗と順位が変わる重要な一戦なのだ。そして、この勝負にはもっと重要な要素がかかっている。

『罰ゲーム? なんでわざわざ……じゃあ、俺が特別にクソ映画を厳選してやるから』

マンネリが続き、何気なく主に意見を求めた事を後悔した一瞬だった。この勝負には単純な勝敗以上にトラウマがかかっている。
インは考える。ここで調子に乗ってダブルダウンしてアルジェントすら叩き落とそうと考え、盛大に負けるのがこれまでのパターン。
ならば、ディーラーのバースト狙いでスタンドか。いや、それはあまりにも及び腰に過ぎる。プラタのあの表情は焦りだ。そうに決まっている。

「ヒット」
「……ファイナルアンサー?」
「なんで今回だけ聞いてくるのよっ!」

それはきっと敗北の気配を感じ取ったプラタの不安。そうインは判断した。
そして、確かにプラタはちょっとビビっていた。なんとなく、この流れは自分の負けるパターンと思っていたからだ。どうせなら調子に乗ってアルジェントを引きずり下ろしてくれれば良かったのになどと考えている。

「ええい、さっさとよこしなさい!」
「仕方ない妹ですね。……サレンダーという手は?」
「正式に明言されちゃったからソレは仕方ないけど、だからと言ってあの罰ゲームは嫌」

実は、さんざんインが末っ子である事に文句を言い続けていたのがマスカレイドとミナミの耳に入ったのか、『面倒だから順番でいいだろ』とコウシキ設定として決まってしまったのだ。超理不尽。
別段それで問題があるわけではないし、メイドなので主の言う事は絶対だから受け入れるしかない。
ただ、それはそれとしてクソ映画鑑賞メドレーは勘弁して欲しかった。本当に絶妙なラインナップで責めてくるのだ。

「よ、よし……運命の一瞬よ」
「…………」

緊張に満ちた表情で配られたカードを捲るイン。ドヤ顔で不安を誤魔化しつつ最悪の事態を想定するプラタ。一人安全地帯から観察するアルジェント。
そのカードが告げる運命は果たして……。

 

 

「なんでじゃーっ!!」

数分後、特にジンクスを崩せずクソ映画鑑賞用の監禁部屋へ連行されるインの姿があった。

『なんかそういう運命の元にあるんですかね』

それを覗いていたミナミは、バイオロイドたちが見せる個性にある種の奇跡を感じていた。

「いーーーやーーーっ!」

6件のコメント

tumodora3

無事、届きました。ありがとうございます。
星の下って残酷ですねw

返信
anokata

リターン届きました
脇役のキャラクターもいきいきとしていて素敵♩

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