引き籠もりヒーロー外伝オーディオドラマ ポストカード用短編

● 登場キャラクター紹介

絶防怪人アンブレイカブル・ボディ

オーディオドラマCV:水島大宙
本編未登場。オーディオドラマの影の主役ともいえるABマンの宿命のライバル。
防御力だけに特化したC級怪人。その尖った能力故に、死ぬ事はないが昇格もできない万年C級という汚名を背負っていた。
ABマンの実験台として、何度も口にしてはいけない箇所を爆破される悲劇の怪人。

ABマン

オーディオドラマCV:森川智之
みんな大好きABマン。本編での登場はまだ先だが、外伝にて先行して登場する事となったアメリカ合衆国ユタ州担当のヒーロー。
ヒーローとしての能力はお世辞にも高いとは言えないが、対象の体内に出現されたビースを爆破するという強力な必殺技を持つ。
ヒーローネームを呼ばれるだけで復讐鬼と化す短気者。アンブレイカブル・ボディは宿敵と書いて実験台と読む。

アレクサンドラ

オーディオドラマCV:友永朱音
ヒーローや怪人のレポートを作成する評価官。深い悲しみを経て運営に勧誘された際、自分を理想の美少女に改造してしまった元ロシア人男性。
レポートを通して多くのヒーローや怪人の勇姿を閲覧。その際に評価依頼に挙がったABマンにより精神侵食を受けたと言い張るが、性癖の変質が加速しただけのような気がしなくもない。
オーディオドラマを聞けば分かるが、マスカレイドのテストの評価官として本編第5話に登場している。

 

 

 

引き籠もりヒーロー外伝「アレクサンドラの怪人&ヒーローレポート」
ANOTHER REPORT「アンブレイカブル・ボディ最後の時」

宿敵と書いて決して友と呼びたくない悪魔、ABマンとの死闘は幾度にも渡って繰り広げられた。
最初の戦いでABマンの言い放った『トラウマを刻みつけてやる』という言葉は、時間を重ね、戦いを重ねるごとに重く伸し掛かってくる。
直腸に感じる違和感は恐怖だ。事情を知らない奴が字面だけで見れば下ネタのギャグにしか見えないだろうそれば、当のアンブレイカブル・ボディにとってどんなものよりも恐ろしい爆弾のようなものなのだ。
確実に爆発する恐怖の物体。それも、相手の気分次第でいつでも発動してしまう。そんな恐怖に怯えながら戦い続ける事など、並の怪人には不可能だ。

戦いを重ねるごとに強化され、研ぎ澄まされていくABマン。能力が底上げされ、装備が充実していく怨敵に比べ、自らの戦力は一ミリたりとも変わらない。いや、増幅する絶望と恐怖、そして比喩しようもない未知の感覚に囚われたそれは明確な弱体化とも言えるだろう。今や、まともに動けるのは最初の攻撃を喰らうまでのわずかな期間だけだ。

そんな圧倒的差がついた状態での戦いは何度目になるのか。他のすべてを捨てて防御力のみに特化した能力であるが故に生き延びている。生き延びさせられてモルモットにされている。
この被虐感に暗い喜びを覚えつつある事を自覚して、アンブレイカブル・ボディは戦慄した。これではどこかの特殊性癖四天王と変わらないではないかと。

そして、今回も為す術もないままABマンの腕が振り下ろされた!

――《 ABフィニッシャー 》――

 

[ 怪人アパート ]

 

「うわあああああっ!!」

悪夢に魘されて飛び起きると、そこは見慣れた部屋だった。安っぽい造りに安っぽい布団、ベッドだって怪人の重量を支えるために石造りである。

「うるせーぞ! 牢名主!」

隣の部屋に声が漏れて文句を言われれば、ここが自分のアパートだと分かる。

「はあっ、はあっ、はあっ……夢か……」

オレの名はアンブレイカブル・ボディ。黎明期に誕生したにも関わらず今尚生き残ってるベテラン怪人だ。もっとも強力な防御力を持つ反面で攻撃力がないからヒーローの撃破経験もないんだがな。
そのせいで、C級以下の怪人用に用意されているアパートでは牢名主扱いだ。確かにこんな奴はオレ以外いない。大抵の怪人はそこまでの経験を重ねる前に死ぬか、B級にランクアップするからだ。
先輩相手なのに、ここに住む後輩怪人どもは敬意を払おうともしない。まるで留年した高校生のようだと職員の誰かが言っていた。

「くそっ……オレは何度あの悪夢に苦しめられればいいんだ」

寝付けなくなったオレはアパート共用の台所で水を飲む。
悪夢のはじまりはあの悪魔との出会いだった。あの筆舌にし難い狂人ABマンと出会ってしまった事で、生き地獄に叩き落される事になってしまった。
ABマンに植え付けられたトラウマは確実に精神を侵食している。AとかBとか聞くだけで身が竦む。自分がC級怪人で良かったと安堵してしまうくらいだ。
毎日のように見る肛門爆破の夢。現実でもそうだが、夢の中でもそれを止める事は決してできない。今では反撃すら覚束ない有様なのだ。ABマンは普通に強くなり、あの外道必殺技がなくとも並のヒーローと同じくらいには戦えるようになっている。
なのに、オレにはトドメを刺そうとしない。すでにどうにでもできる力量差があるというのに加減して制限時間一杯生き延びさせられるのだ。苦しみ悶える俺を時間一杯観察していた時さえある。どれだけサディストなのだ、あいつは。
世間ではマスカレイドがヤバいだのなんだの言っているが、オレからしてみればABマンほどヤバい奴はいない。

「イーッ!」

もう明け方なのか、アパート固有のサービスである怪人新聞が投函された。自動転送もできるはずなのに、何故か戦闘員が新聞配達をしているのだ。
オレ以外誰も読む奴がいないのは分かっているので、その新聞を片手に部屋へと戻る。

「ちくしょう、なんだよABマンに爆破された回数ランキングって。こんなクソランキング作ってるんじゃねーよ!」

下級怪人の情報源である怪人新聞を見てみれば、一面は恐怖の権化として噂になっている銀タイツのドアップだ。まったく隠す気のない蝶マスクがムカつく。
そして三面の各種ランキング一覧。その隅にある超マイナーランキングのトップにオレの名があった。きっとオレのランクでは見れない怪人ネットではもっとひどい事になっているんだろう。いい晒しモノだ。
出会う怪人が皆オレを見て、『ああ、何回も尊厳的な穴を爆破されちゃってる人だ』とか心の中で思っているのだ。最近などは正面切って煽ってくる奴がいるほどだ。ABマンとの対戦時に「くっ、お前など○○○の手にかかれば……」と、それとなく名前を出して誘導してみたら、見事に爆破されて死んでいたから哀れと言う他はないが。

「もう少しで強制出撃期間に入ってしまう。その前にノルマを消化しないと……」

と言っても、どうしてもABマンの影がチラつく。奴とて毎回現れるわけではないが、オレが出撃した際は高確率で狙ったように現れるのだ。病的なまでに執拗な奴の事だから、実際に狙われてる可能性も高い。単に奴の担当であるユタ州を除外すればかち合わないかとも思ったのだが、別の州どころか外国でも追いかけるように出撃してくる。もはやカモですらない実験台のような何かだ。

「とりあえずアメリカは駄目だ。わざわざホームグラウンドを選ぶのは危険過ぎる。かといって、外国でも……」

アメリカと仲悪い国に出現したら出撃を躊躇したりするんだろうか。といっても彼の国と仲悪い国なんてたくさんある。州に絞るとしてもユタ州限定の外交関係など分からない。一番いいのはABマン個人の関係性だが、そんな情報があるはずもない。ヒーローの個人情報は、人間社会から晒されでもしない限り、怪人に明かされる事はないのだ。
そんな事を考えつつ怪人新聞を読んでいると、一コーナーが目に入った。

「こ、これは……」

それは極悪ヒーローと名高いマスカレイド対策の特集ページだった。そこにはマスカレイドに限らず、特定の苦手なヒーローに狙われた場合の対策が記述されていた。
マスカレイド対策自体にはそこまで興味はないものの、同じ外道ヒーローと名高い奴の情報は参考にはなる。何より、そこに付随する情報に目を引かれた。

「そうか、役所でもヒーローの出撃履歴は教えてもらえるんだな……」

ポイントが足りない下級怪人には縁がないと割り切っていたヒーローの情報検索だが、多少時間がかかってもいいなら役所のパソコンや資料室で調べられるらしい。ついでに怪人ポイントを消費するものの、特定のヒーローが出撃したら連絡が届くサービスもあるのだとか。内容にもよるが、公的サービスなのかタダ同然である。

「よし、完全ではなくとも、これなら……遭遇確率は下げられる! ……かもしれない」

奴の出撃した後のインターバル期間を狙う。もちろんアメリカなどではなく、狙われ難い……放置しても影響のなさそうなところがいい。

 

[ 怪人役場 ]

 

早速役所を訪れたオレは窓口で職員から説明を受ける事になった。怪人の利用者は少ないのか、建物はガラガラで職員は超暇そうだ。

「B級以上の怪人は大体ネットで済ませますし、C級も昇格手続きくらいしか来ませんからね。そこはまあ、怪人らしいというか」

暇だからなのか、応対する職員は饒舌だった。聞きたい事の数倍は余計な事を聞かされた気がする。

「それでアンストッパブル・ボディさんは……」
「いえその、アンブレイカブル・ボディです。それは別の怪人なので」

激走怪人アンストッパブル・ボディは、同期出身の怪人だ。いつまでもC級にいるオレとは違い、順調にB級に上がった後に死んだ。結構前なので、もうオレくらいしか覚えていないだろう。

「ああ失礼。それでアンブレイカブル・ボディさんはなんでわざわざこちらに? 正直、怪人カタログのサービスのほうがよほど充実してると思いますけど」
「怪人ポイントがないもんで」
「いや、カタログって各クラス相応の内容になってるはずなんですがね。……ひょっとして、聞いたらマズい話でした? まさか借金とか」

初対面で、しかも役所の職員が突っ込んでくる内容ではないと思うのだが、あまりに暇過ぎて感覚が麻痺しているのかもしれない。

「主に治療費ですね、はい」
「治療費?」

事情を知らない職員は首を傾げていた。当然だ。治療費で首が回らなくなっている怪人なとそうはいない。というかオレしかいないんじゃないだろうか。
怪人は最低限のサービスは無料で提供されている。
風呂なし、共同トイレで長屋のようなアパートは家賃がかからないし、自分で料理するかそのままでいいなら食材も貰える。
怪人は出撃するだけでもポイントが支給されるから、そういったセーフティネット的なサービスに甘んじる怪人はそう多くないのだ。もしくは死ぬだけである。
ヒーローとの戦いで傷ついたとしても、それが軽傷なら無料で治療される。重傷……放っておいたら死ぬような状態だとポイントが必要になるが、それだって高額というほどでもないし、そんな状態になる頻度は少ないのだ。普通はそんな何度も瀕死になる前に死ぬ。
長い事生き延び続けているのに昇格もできす、出撃する度に肛門を爆破されて高額な治療費が必要になるオレは極めて珍しい存在という事なのだろう。

「は、はあ……」

そんな事情を赤裸々に説明したら、職員は引いていた。どう扱っていいのか困ったのか、口数も少なくなる有様である。

「ま、まあ、できる限りのサポートはしますよ。それにしたって、まったくポイントがないってわけじゃないんですよね? それに合わせてサービスを紹介しましょう」
「そりゃ、若干ならありますが……いいんですか?」
「いいんですよ。というか、そんな話聞かされて放置したら、良心の呵責で寝れなくなりますし」
「オレはトラウマで寝れませんけどね、はは」
「はははっ、……笑えねえ」

そうしてオレは同情した職員のレクチャーを受け、最低限身を守るためのサービスを契約した。
とはいえ、ヒーロー相手に直接どうこうはできないので、やはり重要になってくるのは出撃時間と場所の選定、そして対象のヒーローの動向である。
幸い、ヒーローが出撃すればその情報は残る。役所のサービスなら翌朝に出撃情報は届くから、そこから急いで出撃すれば、多少はマシだろう。

そして、奴の出撃した翌日を狙って出撃した。場所はフランス、カタコンブ・ド・パリという場所だ。どんな場所かは知らないが、役所の職員にオススメされたのでここにしたのだ。

 

[ フランス共和国 パリ カタコンブ・ド・パリ ]

 

カタコンブ・ド・パリは薄暗い場所だった。これは逃げるにも隠れるにも好都合だ。一見しただけでは、一体どういう場所なのか分からないが、オススメされただけの事はあるのだろう。
身を隠しつつ、震えながらその時を待つ。

「大丈夫だ。奴さえ来なければいいんだ。最悪、マスカレイドとやらに遭遇しても構わん。文字通り死んだほうがマシだ」

死にたくはないが、きっと噂のあいつなら瀕死で生かして実験を繰り返すような真似はしないだろう。死んだほうがマシな筆舌し難い残虐行為が待っていると聞いてはいるものの、ABマンの肛門破壊実験よりひどい残虐行為などそうそうあるはずはないのだ。

三十分経過してもヒーローは現れない。出撃時間はまだあるものの、このままだったら制限時間まで――

「くそっ」

――その時、転送音が響き、暗い場所が光に包まれた。ヒーローだ。

……大丈夫だ。きっと現地の担当ヒーローだ。それならば、この超絶防御力で圧倒してみせよう。たとえ新人だろうが倒せる気がしないのはいつもの事だ。

転送時に発生する光が引いて、ヒーローのシルエットが露わになっていく。
そのシルエットはなんだかとっても見た事あるような気がするが、あれくらいの体型は良くいる。やたら目立っている< マグナム・パンチャー >のシルエットも、奴だけが使っているわけでもないし。
違う。そんなはずはない。ABマンは昨日……というか、つい数時間前に出撃しているはずなのだ。それを狙ったのだから間違いない。わざわざ担当エリアでもない地球の反対側までやってくるはずがない。
分かっている、願望だ。奴は俺を狙い撃ちにするかのように毎回毎回どこにでも現れる。でも、時々は現地のヒーローが先にやってくるのだ。それが普通。それしかない。たとえ一層露わになってきたシルエットがそうとしか思えないものでも、きっとABマンの格好で驚かそうという現地ヒーローのドッキリで……。

「HEY Unbreakable Body!」
「うわああああああっ!!」

……ABマンだった。ものすごく楽しそうな声である。

それが絶防怪人アンブレイカブル・ボディとABマンの最後の死闘となったカタコンブ・ド・パリの決戦。
最後という事はつまりアンブレイカブル・ボディは死んだという事で、筆舌にし難い惨劇が繰り広げられてしまった。

 

 

[ アレクサンドラ自室 ]

 

評価依頼という事で、もう何度めになるか分からないABマン対アンブレイカブル・ボディの動画を再生したところ、何故かアンブレイカブル・ボディの日常から始まった。
なんだこりゃと思いつつ、延々と流される低級怪人の哀愁動画を閲覧しながら、その最後まで見届ける事になったのだ。

「……私は何故こんな動画を見ているんだ」

いつも以上に謎過ぎるが、アンブレイカブル・ボディはもう死んだみたいだし、忘れる事にした。

 

 

 

 

 

 

 

絶防怪人アンブレイカブル・ボディさんの冥福をお祈りします。(*■∀■*)
します。(*´∀`*)

2021年12月1日

2件のコメント

匿名

文庫版とCD購入しました。
とても楽しませて頂いています。
これからもご活躍応援しております。

ABマンの宿敵も怪人ABなのですね。
怪人AB改になったら、カスタムで
怪人ABC?

返信
コハセユキ

え、ちょ、ここで終わりですか!?読んでて、頑張れアンブレイカブル・ボディって手に汗握りながら応援してたのに!!
……無茶苦茶面白かったです

返信

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