引き籠もりヒーロー 第四巻 短編SS タペストリーA「プライベートファッションショー」

「さて、部屋の整理も終わった事だし、姉ミナミの嬉し恥ずかし着せ替えショーの時間だ」
「は?」

爆弾怪人が落ちて来たあの日からしばらく経って、唐突に帰宅した姉ミナミ。
行方が分からなくなっていた理由だとか、実はヒーロー陣営で働いてましたとか、あのシャンプーの出所とかいろいろ気にはなるけど、それらはひとまず置いておくために脳内リフレッシュする事にした。
つまり、姉を着せ替え人形にしてのファッションショーである。

「あの、このあと動画編集とかいろいろするつもりだったんだけど」
「秘密保持を強要するんだから、少しくらい妹の頼みを聞いてもいいと思わんかね? それとも、その動画編集とやらは小一時間も捻出できないほど重要なものだとか?」
「い、いや、ついでだからやっておこうかなーくらいのものではあるけど」
「ならいいじゃないか」
「なんかいつもより強引なような……そんな性格してたっけ?」

私からすれば、久しぶりに会った姉のほうがよほど性格違って見えるのだけど、それは環境によるところが大きいのだと置いておく。

「最近、ちょっとストレスを抱えていてね」
「はあ……なんの話? 話題飛んだ?」

実はといえば、私は高校で目にする光景に少しうんざりしている。
特別可愛らしい制服を選定基準に進学した高校では、さぞかし目の保養になりそうな見目麗しい光景が広がっているのだろうと……そこまで期待していたかといえば嘘になるが、それでもある程度の期待はあったのだ。
普通、人間というものは格好に合わせて最適化されるものだ。それは、そういう用途の服を着ているという自覚からくるものが大きいだろう。
学生の学生服に限らず、値段や仕立てのレベルごとにランクが別れたサラリーマンのスーツ、看護師やスポーツ選手、キャビンアテンダント、アイドルなどでもいい。それらは相応しい格好に慣れていくに従って次第と似合うようになるものなのだ。着られる格好が着る格好へと変わるのである。
だから、たとえ元がアレなスタイルでも、日常的に着ていればウチの制服だって似合うようになるはずだと期待していたのである。
確かに環境に合わせて似合うようになってる人はいる。特に上級生に顕著なようだ。しかし、大多数の生徒は似合うようになるための努力すらしない。中には着るだけで自分が可愛くなると勘違いしていて、現実と理想のギャップに悶えている奴もいるくらいだ。
容姿のタイプや骨格などはある程度仕方ないにしても、痩せようとすらしないのは目に余る。そして、そういう奴に限って『ダイエットしてるのー』とか言い放つのである。ふざけんな。確かに私は生来恵まれた容姿を持っている自覚はあるが、日々可愛くあろうと努力は続けているのだ。何もしていない奴に『ミナミさんは元が可愛いからいいよねー』とか、完全に舐め腐った発言である。
もちろん、表面上ははいはいと聞き流しているのだが、少しずつストレスが溜まるのは避けられない。

「そんなわけで、最近は主に阿古君を着せ替え人形にして遊んでいるんだが」
「それって、お隣さんの事!? 無理矢理じゃないよねっ!?」

失礼な。もちろん、ちゃんと許可は取った上でやっているに決まっている。
表面上いやいや言っていても、なんたかんだ女子なのか、最終的に楽しそうにはしているのが分かるのだ。別に変な格好をさせようという話でもなく、ひたすら可愛い服を着るだけなのだから当然だろう。写真については本気で嫌がっている事もあるけど。
それに阿古君の容姿はかなり整っているほうだ。スタイルなども合わせて、目に毒な連中とは雲泥の差である。能天気に見えて実際能天気な彼女だが、可愛らしくあるための努力はしている。最近は私に触発されていろいろ手を出している面もあるが、元々そういうタイプなのだ。自分が可愛くないのは嫌という本能に近いものをちゃんと備えている。

「今回、姉ミナミにはどうしても着てほしいものがあったんだ」

そして、姉ミナミも見た目はいい。エロ特化なスタイルはこの際個性として扱うとして、十分以上に目の保養になる事は間違いない。だって、いなくなる前までも普通にやってたし。
背がほとんど変わらないから、丈を気にせず着れるのも好材料だ。バストサイズの問題はあるけど、たいていの場合は多少無理をすれば着れる。

「な、何? 前にみたいに紐水着出してこないよね?」
「アレは冗談だから」

アルは姉ミナミのエロボディならさぞかし似合うだろうとお試し感覚でやってみただけである。正直私の趣味じゃないし、姉の現実離れしたエロボディにちょっと嫌になった事は否定できない。
まったく羨ましくはないのだが、それはそれとしてなんか負けた気はするし、ヤバいものを見てしまったという気にさせるのである。

「じゃあ何? 可愛いだけなら別にいいんだけど」
「大丈夫、とびきりのやつさ。私の高校の制服だからね」
「…………あの、ど派手なやつ?」
「そのど派手なやつ」

派手なのは否定しないし、できない。一般的な高校制服のそれから異次元レベルで掛け離れ、創作でもなかなか見ないレベルの派手さだ。
慣れていなければ、これを着て電車通学など苦行だろう。私はそういうすべてを乗り越え、あえてここに立っているのだ。内心では、どうだ似合うだろうと見せつけるつもりでいるのがコツである。

「ま、まあ、部屋の中だけならね。外出はしないから」
「やっぱり興味はあるんだろう?」
「う、うーん、否定はできん。自分から進んで着たいとは思わないギリギリの塩梅……やるな、妹よ」
「言いくるめるのは阿古君相手に練習した」
「一回、謝ったほうがいいんじゃないかな」

別に謝ってもいいが、やめる気はない。強要もしないけど、本気で嫌がっていなければ言いくるめるのは規定路線なのだ。

「えーと、何コレ。どんな構造してんの? 毎日コレ着るとか面倒でしょうに」
「オシャレには妥協しない心情なんだ。というか、それほどかな?」

ウチのクローゼットだけでも、これより複雑な服なんていくらでもあるんだけど。
せっかく眼の前で着替えてみせたのに、それだけじゃ足りなかったらしい。

「しょうがないな。ここは私が着せ替えてあげよう」
「手をワキワキさせるのはやめなさい。エロ親父じゃないんだから」
「冗談だよ。まあ、楽しいのは否定しないけど」
「それは顔を見れば分かる」

趣味だからね。しょうがないね。

「というか、人に着せるのって別のコツがいると思うんだけど、慣れ過ぎてない? 前より上手くなってる気が……」
「実際慣れてるから」
「やっぱり、お隣さんに菓子折りでも持っていったほうが……」

別に、練習台は阿古君だけじゃないけどね。それはそれとしてお菓子は喜ぶだろう。
というか、あのシャンプーを見る限り、お菓子もすごいのが出てくるかもしれないし。私も普通に食べたい。
そして、数分もすれば着替え終わる。慣れたものだ。

「うおー、やっべえ、資料では見てたけど、実際に着ると想像以上にやべえ。なんかテンション上がってきた」

着せ替え終わる頃には姉もノリノリだった。だいたい想像通りの反応である。
胸部は予想通りパツパツだけど、全体の見栄えはとても良い。

「実は結構値段もする」
「だろうね。普通に生地からして上物だし。フリルに妥協が見えない。うーむ……匠の技」
「自分で手は入れたけどね」

最低限だけど、最低限で済むくらいには出来がいい。デザイナーや生産企業とのタイアップがパンフで大々的に宣伝されているあたり、そこら辺は気を使っているはずだ。
だからこそ、こんな高いものを適当に着る連中が許せないというのはある。

「じゃあ、逆に妹ミナミは私の制服でも着てみるかね? ここまで派手ではないけど」
「ぶっちゃけ超興味あった」

なんなら、このあと普通にお願いする気だった。
実際に着てみると当たり前のように胸部が余ったけど、足りない分にはそこまで問題はない。

「姉ミナミ、痩せた?」
「え? どうだろ。太ってはいないけど、痩せてもいないような」

しかし、ボトムズのサイズに微妙な着心地の悪さがある。尻は……まあ多分姉ミナミのほうが大きいんだろうから、そこは楽に入ったのに、腰部分がギリギリなのだ。留められはするけど、なんとかって感じだ。

「おのれ……」
「な、何っ!?」

胸とか尻はともかく、ウエストサイズは普通にムカつくし羨ましい。私も大概スタイルには気を使ってるほうなのに。しかも、話した感じだと特別ダイエットをしているわけでもなさそうだし。
というか、こうして見ると以前よりエロボディのエロっぷりが際立っている気がしなくもない。一体どんな生活をしているというのだ。

「お風呂の時は気付かなかったけど……良く見たら、肌の状態が異様にいいような」
「そ、そうかなー。気のせいじゃない? お風呂上がりなわけだし」
「もう結構時間経ってるでしょ。そういえば、出会い頭にほっぺたムニムニした時も……」
「そんなんで感じ取れるんか。……って、ちょっと、触るなー」

伊達に美容に気を使っているわけじゃない。手触りまで確認すれば確信が持てる。

「正直に白状しなさい。あのシャンプーだけじゃないでしょ」
「……はい。余裕があったからつい色々と」

マジか。どんだけなんだ。
髪にしろ肌にしろ、姉ミナミの状態は以前の段階でもかなりハイレベルだったはずなのに。そこからハッキリ分かるほどだと。

「キリがないから、シャンプーくらいで済ませそうとしていたのに」
「やっぱりお高い?」
「お風呂でも言ったけど、別にお高くはない。普通の手段じゃ絶対手に入らないってだけで」
「マジか」

こんなもの、多少でも美容に関心があれば喉から手が出るほど欲しいに決まってる。今どきなら下手したら男性でも欲しがる人はいるかもしれない。

「ほら、髪もだけど、いきなり見栄えが変わったらそこから身バレの可能性が……なんか、別にウチの妹なら問題ない気もしてきた」
「いやまあ、確かに普段から気を使ってるし、周りからはその延長線上の変化にしか見られないかもね」

別に老化や環境の負荷などで状態が悪いところから改善するわけでもないのだ。周りの反応はさして変わらないだろう。

「んー、じゃああんまり問題ないのかな」
「お金の問題なら、多少なら……」
「それは別にいいんだけどね」

普通に買うなら、多分馬鹿みたいな値段になるんだろう。姉妹とはいえ、それをタダで使わせろというのは正直気は引ける。
かといって、だからどうしろという話でもあった。でも、諦めるのはナシで。

「ま、まあ……様子見ながら少しずつ……なら?」
「素晴らしいっ! 今日くらいは姉ミナミを敬ってもいい」
「普段から、もう少し姉として扱ってもらいたいんだけど」

いろんな意味でそれは無理だ。

「それじゃ、そろそろ動画編集に入るから脱ぐね。あ、ソレは別に着ててもいいけど」
「えー、写真は?」
「しゃ、写真はちょっと……というか、あんたの場合キリがないし」

自覚はあるが、どうせならって気はなくもない。
まあ、いきなり行方不明になった時のように、今後ずっと会えないかもしれないという話でもなく、そこそこの頻度で帰って来る気はあるようだから、今日は諦めるか。
阿古君も見たかったと思うんだけど……。

そんな感じで、姉ミナミは謎の動画編集作業のため、自分の部屋に戻っていった。
結局、一日だけのはずが次の日も残る事にはなったのだけど、着せ替え写真は撮れずじまいだ。残念。

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