引き籠もりヒーロー 第四巻 短編SS タペストリーB「プチ海水浴」

 

 

高校進学して初の夏。再来年は受験だから当然アウトとして、来年だって何があるか分からないから、ある意味高校生らしく夏を過ごせる最後の機会かもなーと思いつつ、割と気合入れて計画する事になったプチ旅行。
元々はミナミさんと再度会って話すための場を設けるための口実の意味合いが強かったのだが、旅行自体を楽しんではいけないはずもない。
結果として、ミナミさん家の伝手で個人経営のペンションを貸してもらう事になり、女子高生六人の外泊となったわけだ。
正直な話、ちゃんと全員参加できるかは賭けに近かった。主な問題はこちら側にあって確実に参加可能なのは私だけ、クリスは期末次第で補習に放り込まれる可能性、残りの二人も部活の予定次第。しかも、二人とも部活は別という事実がハードルを上げている。

そのプチ旅行は冒頭から乗り換えでクリスが逸れるという、波乱を予感させるような、それでいていつもの事かと思うようなサプライズイベントから始まった。
果たして、ミナミさんが別行動で拾ってもらえなかったらどうするつもりだったのか。ある意味らしくもあり、悪運が強いなと思いつつ、晴れて女子高生カルテッドマイナス1となった私たちはそのまま電車に揺られて旅行先へと向かう。

「ミナミさんがお姉さんの車で拾ってくれるってさ」
「それは分かったけど、アッス落ち着き過ぎじゃない?」
「こっちは気が気じゃなかったのにねー」

だって、クリスだし。

「どうしようもないなら迎えに行くしかないって覚悟決めてるから」
「すごいね、幼馴染」
「それは果たして幼馴染なのか」
「すごいね、保護者」
「多分それ。子供じゃなくてペットの」
「妙な息の合わせかたするな」

慣れたくないけど、慣れてしまったのだ。正直、単に逸れたくらいならいつの間にか合流しているのがクリスだし。
明確に誘拐でもされたら、そりゃ焦るだろうけど……いや、どうなんだろう。今の時期、単に犯罪だけじゃなく怪人の問題もあるしな。
かと言って無軌道な鉄砲玉みたいなクリスだから、根本的に制御は難しいというか。

「そのクリス拾ってくれたミナミさんって子が、今回の宿泊先紹介してくれたんだよね?」
「うん。いろいろ条件はあるけど、かなり割引きしてもらったって」

おそらく、今回スケジュールを組むの鬼門となった内のトップだ。
割引してくれるのは客がいない隙間だけで、その期間は相当に限られていたのだから。人数はともかく行く事は決めていたから、早々に予約を入れられたのが大きい。部屋数を気にする必要ないし。

「こうして写メ見るだけでもすっごい美人さんだけど、大丈夫かなー。気難しかったりとか。もう一人の子もだけど、旅行先で合流初対面って何気にハードじゃない?」
「こんな事言ってるおかちゃんはともかく、わたしちゃんは見た目のまま人見知りよ」
「ちょっと変な人だとは思うけど、大人っぽい性格だからあんまり気にしなくてもいいと思うよ」

というか、私だってミナミさんと直接会った経験はほとんどない。でも、性格的に見てもお互い問題はないと思う。
泉も青も人当たりいいし、入学早々私はともかくクリスと仲良くなるくらいには社交性に富んでいる。

「アッスがそう言うなら大丈夫だとは思うんだけどね。実際に会わないとイマイチ勘が働かなくて」
「昔から、おかちゃんはその勘に頼り過ぎ。当たるのは確かだけど」
「ウッツはいい子だからねー。昔からちゃんと当たってるぜい」
「やめてよー」

私をアッスと呼ぶのが岡田泉、くまちゃんと呼ぶ眼鏡っ娘は宇津木青、どちらも私とクリスのクラスメイトで、高校に進学して早々に仲良くなった友達だ。
二人は中学以来の親友で、たいていはセットで動いている。部活は違うし、中学時代はクラスが違った時期もあるのに、こうして一緒にいる。
アクティブな泉と、後ろに下がりがちな青でバランスがいいのかもしれない。あるいは役割分担してバランスとってるのかもしれないけど。
ただ、これまで私が関わってきた人たちの中ではかなり普通な部類と言えるだろう。今回の旅行に参加したメンツの中ではここにいない三人は、特に二人はちょっと普通じゃないところが多いから、二人と話してると落ち着く。みんないい子なのは間違いないんだけど。

そんな感じで、目的地まで三人の電車旅は雑談に興じているだけであっという間に過ぎ去った。
途中からクリスの事を気にしなくなったあたり、二人ともあの子と付き合う才能はあると思う。

「おー、田舎」
「駅前ですら高い建物が少ない。これは勝った」

たいして変わらない田舎者たちが何を言っているのか。
少しだけ待って目的地近くの駅で阿古と合流。電車で出発したくせに車で到着したクリスを回収しつつミナミさんと合流して、ようやくフルメンバーだ。
ここまで来たついでという事で、ペンションの場所を知っているらしいミナミさんのお姉さんが送ってくれる事になり、女ばかりで姦しい車は目的地へとひた進む。
自己紹介も主に車の中で済ませる事になった。

「広ーっ!」

みんなでペンションの広さに感激しつつ、荷物だけ置いて早速ビーチにゴー。
……勢いがあったのはそこまでで、私たちは全員海岸の人の多さに撃沈した。
怪人騒ぎやら観光離れやらで人は減っていたと聞いていたのに、というかそれが原因でペンションの予約が取れたはずなのに。まさか、以前までならコレより上という事なのだろうか。

「人自体は少ないよ。前に来た時はもっと人いたし……というか、明確に寂れてるね」

しかし、経験者のミナミさんによれば、これでも空いてるそうだ。
本当かなーって感じだったけど、実はカラクリがあって、利用していい範囲を限定して調整しているらしい。……確かに立ち入り禁止の看板があるな。良く見れば、遊泳禁止のブイもかなり近いところにあるし。
つまり、そもそものキャパが少ないところに人を詰め込んでいるから混雑していると。

「だからライフセーバーも海の家も、それ以外の屋台も少ないだろ?」
「じゃあ、近くの海岸も?」
「どこも似たりよったりだろうね。慣れてないのか、管理もグダグダな感じなのかも」

マジかー。海で遊ぶの、ちょっと楽しみにしてたんだけどな。これじゃ、泳ぐどころじゃない
空いてるところはあっても、そこで遊んでたら怒られそうだ。隠れて侵入してまでってほどでもないしなあ。
……あ、空いてるところに入らせろって感じで言い争いしている人がいる。

「海で遊ぶどころじゃねー。このカレーもあんまおいしくないし」
「だねー。正に海の家」
「クリスも阿古も、今日の夜はカレーって決めてたのになんでカレー食べてるの?」
「「カレー以外売り切れだったし」」

ハモるな。別に、近くのコンビニまで行けば何かしらあるはずだけど、面倒なのか移動したくないのか、あるいは海の家のものが良かったのか。

「早めに夕飯作るためのスーパーに移動していいかもね。海楽しむどころじゃない」

何も食べていないミナミさんにも、少し疲れが見えていた。反対側にいる阿古とクリスが元気過ぎるだけかもしれないが。

「泉と青みたいにコンビニ行けば良かったかも……あ、戻って来た」
「あー、コンビニも込み込みだったよー。レジ行列が大変な事に……というか、こうして見ると、君たちビジュアルレベル高くて目潰れそう」

ミナミさんやクリスの容姿レベルが高いのは今更だ。でも、こういうイベントにありがちなナンパが出現していないのは、レベルが高過ぎて近寄り難いオーラが出ているからだろう。だって、近くには普通にナンパしてる人いるし。

「というか青だけ? 泉は?」
「返ってくる途中でナンパ……」
「あー、やっぱりそういうの多いんだ」
「してた」
「「「「はっ?」」」」

あまりに想像外な返答に、私たちの心が一つになった。

「なんかねー、地元のイキリヤンキーみたいな人たちのナンパ止めていたライフセーバーっぽい人を遠巻きに見てたら、急におかちゃんが話しかけに行っちゃって」

どんな流れだ。情報過多過ぎて興味湧く以前に疑問しか浮かばない。
というか、青はそれを置いて来たのか。

「まあ、おかちゃんはいつもの事だし、さっきスマホにちょっと遊んでくるって来てたから、放っておいていいんじゃない?」

本人がいいんならいいんじゃないかな、うん。別に逆ナンしちゃいけないなんて事はないんだし。

結局、泉は夕飯には遅れても、その人に送られて戻って来たので実際問題はなかったのだろう。
それはそれとして、ナンパした相手がライフセーバー装った覆面警官だったとか、そのまま今後も付き合うかもなんて話になれば、超展開よりも色恋の話のほうが気になってしまうのが女子集団というものだ。
妙な形で楽しむ事になった旅行一日目は泉を囲んでの詰問会で盛り上がり、終了した。

初日の海水浴で懲りた私たちの二日目はペンションの近辺でゆっくり過ごす事にした。元々海水浴客向けでやっているわけでもないのか遊ぶ場所は充実しているし、海岸と比較にならないくらい静かなので散歩や散策していても普通に楽しめそうだ。
泉だけは例の警官との逢引きに向かったけど、私たちもそれなりに満足する事ができた。

「あ、叔父さんからだ……うーん」
「どうしたの? ミナミさん」
「いやね、昨日の海水浴があまりにアレだったんで、近くに穴場的なスポットはないのかって聞いてみたんだけど」

やるな、ミナミさん。私はすでに海水浴は諦めてたんだけど。

「あるにはあるけど、ライフセーバーとかいない場所だから、誰か責任者いないと駄目だって」
「う、うーん」

困った話だ。昨今の世の中、そういう事にうるさい人も多いので、その叔父さんにしても容易に紹介するわけにいかないんだろう。
他の客もいるから安全性の問題は案外なんとかなっちゃうかもしれないけど、叔父さん的にはルールを守るのが条件って事かな。
聞いてみたら、ちゃんと利用申請が必要らしい。

「じゃあ、藤川さんに頼んでみようか。おねだり力の見せ所や」

反応したのは泉だった。

「藤川さんって?」
「ほら、ケーちゃんが逆ナンした相手」
「ほー」

周りからは半分冷やかしが入った反応だったが、当の泉はどちらかと言えばのろけている感じで、会ったばっかりなのにそこまでかいって状態だった。
そして、実際に頼んでみれば渋々ながらも了解が得られたらしく、三日目の海水浴リベンジが決定したのだ。この感じだと、マジでそんな関係なんだろうか。

「おー、すごい。崖じゃー」
「クリス、窓から乗り出さないで。……藤川さん、ほんとすいません」
「はは、今更だから気にしなくていいよ」

単に責任者として参加してもらうだけでなく、わざわざ車まで出してくれた藤川さんの表情には諦めがあった。
泉がべったりしていると満更でもない感じだから騙しているって事はないんだろうけど、一体どんな力関係が成立しているのか。急展開過ぎる。
最初の日に送りに来てくれた時に話した限り、警察官が、それも業務中に未成年をナンパする事についての倫理観が欠如しているわけでもないらしいし。

「怒られるのは確実だし」

今更のランクが違った。
ちなみに、藤川さんともう一人の同僚さんは臨時で有給を取ってくれたらしく、今日はプライベートだ。元々、この遠征業務中に何日か休みはもらえるという話で、そのスケジュールが決まっただけとは言うが、本当に良かったのかって話だ。
同僚さんにしても婦警さんなのは多分、私たちに気を使ったっぽいし。

というわけで、目的地近くの駐車場から、正に穴場という感じの、周囲からは確実に目に入らなそうなスポットへと向かう。

「確かにコレは穴場かも」

実は利用客は私たちだけではない。同じように紹介されたり、勝手に利用している地元民といろいろだが、その人口密度は一昨日の比じゃなくスカスカだ。
そもそも秘境みたいな場所にあるから地元民でもかなり近辺の人しか知らないらしい。
かわりに海の家や出店もないので、必要なモノは自前で用意しなければいけないが、その辺も抜かりはない。全員の荷物持ち役に抜擢された藤川さんが結構な距離を運んでくれた。

「いやー、二人きりならともかく、君らの中に混ざって楽しむのはちょっとしんどい。いやー、眼福ではあるんだけどね」

申し訳なさもあったので確認してはみたが、返ってきたのはそんな言葉だった。確かに女だらけ、しかもほとんどが女子高生っていうのは男性にはしんどい場面かもしれない。
結局、彼はほとんど荷物番だけで過ごす事になり、海に入る事もなかった。まあ、結構な時間、泉が対応していたから問題はなさそう。
……なんか、本当にいい感じなんだけど。

「明日香ー、運んでやー」
「はいはい」

でかい浮き輪に乗ったクリスを押しつつ、海水浴場の隅のあたりを探索する。

「あれ、一昨日のところだよね? めっちゃ優越感」
「多分?」

大きな崖に阻まれて見えないが、遠泳禁止用のブイ近くまで来てみれば、かなり遠くに初日の海水浴場らしき場所が見えた。
相変わらず混雑しているように見えるが、こうして見ると確かに利用面積が小さいなーとミナミさんが言った事を実感したりもした。砂浜が余っている。

「明日香、来て良かったねー。最初はなんか話大きくなってびっくりしちゃったけど」
「……そだね」

クリスは今回の話の裏であった事なんて何も知らない。というか、私とミナミさん以外は単にプチ旅行に来ただけだ。
でもまあ、ついでのつもりで企画したプチ旅行でも、これだけ楽しめるなら良かったと思う。

「そういえばだけど、なんでクリスは泉の事ケーちゃんって呼んでるんだっけ?」
「……なんでだっけ? 忘れちゃった」

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